曇りなき心の月を

感想ブログ(多分)

劇場版スタァライトを観てきました その②

◯まえおき

記事を書いた後また二回ほど観てきました。

前回観た時より頭が整理されて、「ここのセリフや場面はここと繋がってたのかぁ」みたいな発見が多くてまた新しい楽しさがありました。

 そんなわけで新発見の部分も加えつつ、また劇スタァの感想を書いていきたいと思います。

 

※注意※

以下の記事にはTV版~劇場版までのスタァライトのネタバレをハチャメチャに含みます。

OKな方のみスクロールしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは今回も行ってみましょう。

◯劇スタァのここ好きポイント②

●星見純那と裏腹な言葉

また純那ちゃんの話です。

TV版でも今回の映画でも、レヴューでの純那ちゃんは口に出した言葉と反対の行動を取る・起こすことがままあります。

「埋もれていられない」と言ってマネキンに埋もれてみたり、「星が導く」と歌って星の文字で惑わせてみたり。

戦い方も卑怯、というとちょっと言い過ぎですが、武器が弓なこともあって正面衝突を避けて搦手に走るときが多いですね。

自分より格上の相手と戦う際に手段を選んでいられないという精神の現れかもしれませんが、理に従うように見える行動が舞台少女としての自分と摩擦を起こして、純那ちゃんは100%の力を発揮出来ていないようにも見えました。

今回ななの刀を奪ってからは、そのジレンマを脱却したように思えます。

まだ終わっていない、諦めない、止めるというなら殺してみせろ。

自らを堂々と叫んで、脇目も振らずまっすぐ燃やし尽くす。

そんな舞台の上で求められる理を、感覚派でない純那ちゃんがようやく掴んだ一瞬だったのかもしれません。

何が言いたいかというと純那ちゃん最高だったなということです(二回目)。

 

●競演のレヴュー、あるいは観客による舞台

ひかまひ、2人だけの初舞台。この組み合わせが来たのは嬉しすぎて思わず映画館で笑いました。

華恋との約束を、舞台少女のキラめきを取り戻したはずが、何故か聖翔から姿を消してしまったひかり。

第二の故郷ロンドンで、一人台本と向き合う彼女が何を思っていたのか。

それをこの舞台で唯一糾弾の資格があるまひるが、舞台も自分も目一杯使って問いかけていくレヴューでした。

まひるちゃんはあくまで演技としてひかりに「大嫌い」を突きつけ、心を追い込み真実を聞き出そうとします。

でも個人的にはひかりは言われても仕方ない、というか世界でまひるにだけは言われても文句が言えないなと思っていました。

それは劇スタァで華恋の過去が明かされる中で、華恋とひかりの間にある不均衡が浮き彫りになって、「ひかりって自分に都合のいいように華恋を使ってた節ない?」と(露悪的に言えば)思えてきたことに起因します。

ひかり自身は「華恋すぐ甘えるから!」と理由をつけていましたが、一方通行の手紙だけで人生賭けて運命の舞台を目指せ、というのは少々酷な話でしょう。

華恋が「運命の…はずだよね…?」と弱気に流れてしまうのも頷けるし、むしろよく頑張っている方だというのは叔母さん(かな?)の反応からも伺えます。

それだけ決死に待ち続けて、ようやく二人のスタァライトが始まったのに、その幕が降りる前にひかりは舞台を去ってしまう。それはあんまりでしょう。

その喪失感を、それまでの寂寥感を、一番近くで支えてきたのは誰なのか。

親、友人、クラスメイト。色々な繋がりはあるでしょうが、同じ舞台少女として最も隣で支え続けたのは間違いなくまひるちゃんだと思います。

TV版でのレヴューを経て嫉妬や執着を健全な愛情へと昇華させたとは言え、まひるちゃんから華恋に抱く感情の総量はおそらく変わっていません。

ですから、華恋に会いに行くひかりに「今更どの面下げて来た」と、その不義理を責める役をまひるちゃんは遂行しなければならないのです。

このレヴューの優れた点の1つに、そうしたまひるの感情の動き/映像の進行と、視聴者(というか私)の心がシンクロする点があると思います。

華恋の扱いに対してひかりに抱いていた引っかかりが、まひるの詰問で噴出していき、そしてひかりの謝罪でするすると解けていく。

ひかりちゃんはずっと怖かったのでしょう。華恋に照らされて、その光に甘えてしまうことが。自分で輝けなくなる未来が。

「すぐ甘えるから」は華恋だけでなく自分にも向けた言葉だったわけですね。

そうしてスクリーン越しに二人のレヴューを見守っているだけだったはずの私は、気づけば舞台に引き込まれ、共に演じているような錯覚に陥ってしまう。

自分が聞きたかったことを問い詰めてくれるまひるに共感し、まるで私がまひると一緒にひかりを追いかけているような気分にさえなってしまう。

全体の構成とその印象を悪魔的な程に把握した、精妙なレヴューだったと思います。

「競演」の名にこれほど相応しいものもないでしょう。

 

●露崎まひるの卒業

レヴューを振り返ったので、まひるちゃん個人の話も。

今回の「卒業」に際し、新国立入団を選び取ったまひる

舞台に生きると進路を定めた彼女が何故ななに殺されてしまったのでしょうか。

個人的に彼女に足りなかったものは「勇気」じゃないかと思っています。

自分はこうだと覚悟を決めたのに、どうしてもついてこない心。もし結果が出なかったら、失敗してしまったら。

演じることも、終わった後も、本当はずっと怖かったのだと告白するまひるちゃん。

そんな恐怖に竦む足を奮い立たせるための最後のピースを、彼女は探していたのではないでしょうか。

そのピースが競演のレヴューにて、華恋とひかりへの愛から芽生えてくるところが本当にまひるちゃんの善性を感じさせて良いですね。

ずっと自分を照らしてくれていた華恋ちゃんも、なんだかんだお世話を焼いていたひかりちゃんも、心底愛おしいと、抱かせてくれた愛に報いようと思ったからこそ出来た舞台女優としての演技。

そうして真心から生まれたものが、経験となってまた露崎まひるを強くしていくことでしょう。

最後の胸に迫る自分へのエール、「夢咲く舞台に 輝け 私」がこれから実現していく未来を確信させてくれるような、力強い「卒業」だったと思います。

 

●ななの刀

ななの二刀流が「舞台を演じること」と「舞台を創ること」を表しているのはなんとなく分かります。

ではその大小拵はどちらが「演」で「創」なのでしょうか。

TV版だけ観ていた時はなんとなく「長い方が演者としてのななかなぁ」と思っていましたが、最近は違うような気もしていました。

真矢様がわざわざ発破をかけに行きたくなるくらいには「演」のななは優れているわけですが、同時に中学時代は自作の脚本で賞をもらっていた程の「創」の才能もある。

そしてななが本当の意味で舞台に立ったのは聖翔に来てからであって、それまでは個人練習と脚本創作に精を出していました。

(これは『ロロロ』パンフレットで知った情報ですが、中学ソロ演劇部の時に12本の脚本を書き上げているらしいです。年間4本ペースで書き続け、内一本は入賞。凄い(小並感))

実際の舞台での経験の少なさや、脚本を執筆していた期間の長さを考えると、打刀が「創」で、脇差が「演」なのかなと思っています。

そして今回『劇スタァ』で純那ちゃんが手に取ったのが脇差の方だったことで、その思いはより強くなりました。「創」の方だったら、舞台製作の経験がない純那ちゃんにはあれだけの大立ち回りは出来ないんじゃないでしょうか。

そう考えると「演」の脇差を三方に乗せて蹴ったななは、上を目指すことを諦めた(ように見える)純那ちゃんを見て、自分も演者としての道を放棄するつもりだったのかもしれませんね。

ありがとう純那ちゃん……。

 

●Q.じゅんななな好きなの?

A.別に好きじゃありません。普通です。

 

●魂のレヴュー

非常に素晴らしいレヴューであったのですが、正直に言うとあまり書くことがありません。

なぜならこのレヴューの全てはあの映像で語りきられていて、あそこに籠もった熱と様々な舞台の引用が見事に天堂真矢と西條クロディーヌを表現しきってしまっているからです。

最高でした。皆様も是非また劇場で観てください。本当にそれくらいしか言うことが無い気がします。

でもまぁそれも味気ないですし、ここは感想ブログですから、蛇足ながら感じたことを書いていこうかと思います。

私が一番興味を惹かれたのは、真矢様の自意識についてでしょうか。

『劇スタァ』は今まで描いて来なかった所を掘り下げるのに精力的なので、舞台少女としても人間としても優れた面が目立った真矢様の脆い部分を追いかけて行くことになります。

 才能と機会に恵まれ、たくさんの舞台に立ってきた真矢様。様々な役を演じることが出来た彼女は、その多彩さ故に自分を見失ってしまっていた。

どうして自分はこんなにも多種多様な役柄を演じることが出来るのだろうかと、数多の顔を使い分ける自分は何者なのだろうと、真矢様にもそんなアイデンティティに悩む日々があったのですね。

その結果行き着いたのが、あの鳥の像。機械仕掛けで心のない、空っぽの器。羽ばたいて見えるのはただ吊るされているだけ。言われて舞台をなぞるだけの装置。

自身の全てがそうではないと分かっていても、真矢様は舞台上の己を「そういうもの」だと思っている部分があったのかもしれません。

「時に台本をはみ出ても、ぶつかり合う感情の波こそが舞台」だと思っているクロディーヌにしてみれば、そんなデタラメはたまったものではなかったでしょう。

今まで何度も競い合い、時に敗北し、互いを見つめて切磋琢磨してきた相手が空虚な人形だったなんて、あまりにも悪い冗談です。

だから真矢のことを「ただの欲深い人間よ!」と指弾し、「何度でも蘇って打ち負かす!」と高らかに吠えます。

自分が認めた、憧れた、愛した天堂真矢は、そんなつまらないハリボテではないのだと、鳥の首を斬り落としてみせます。

そうしてようやく内面がむき出しになった真矢様はいつもより圧が強めで面白いですね。口調もキツイし当たりも強い、ムキになっていたのでしょうか。

そうして始まったACT.4、魂のレヴュー最終章にてクロディーヌは遂に天堂真矢から勝利をもぎ取ります。

ライバルとしてあるからには、追いかけるだけではなく、追い越してやらなければならない。その気持ちを形骸化させてもいけない。常にお互いを熱く追い求める魂の温度こそがライバルをライバルたらしめるのです。

その志が、あまりにも充実した日々に鈍麻し、クロちゃんは牙を無くしてしまうところだった。ななに斬られたのはこのためですね。

個人的には彼女にも「大きなものに身を投げだして、安住していたい」というような停滞的な指向があることに驚きつつ、勝手な親近感を覚えたりしていました。

(この「自分の憧れの背中を眩しく見つめる幸せ」と、「それを投げ捨ててでも相手に勝ちたいと願う闘争心」の対比は非常に好みの味付けで、他作品のキャラ[具体的に言うと『黒子のバスケ』黄瀬涼太や、『アイカツフレンズ』友希あいねなど]を思い出しながら一人で深く感じ入っていました)

入学からずっと変わらなかったポジションがようやく逆転し、2人は本当の、生涯のライバルになる。

あなたの心が私の燃料、あなたの明かりが私の標。「私達は、燃えながら共に落ちてゆく炎」というレヴューを締めくくるこのセリフは、そんな今の2人を象徴したあまりにもエモーショナルなコピーだと思います。

かなり長いのに一時も緩まない良いレヴューでした。

 

◯おわりに

また全然短く纏められず大変でしたが、少し脳内が整ってから書いたため前回よりは多少読みやすく出来たような気がします。

残念ながらまだ書きたい場面が残っているので、また近いうちに書きます。EDのあれそれとか、かれひかの決着とか、書かずには終われないのです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。前回も読んだよ!という方には更に二倍ありがとうございます。遅筆ながら出来るだけ早く次回を書き上げるように頑張ります。